熊本の祖母の家で暮らし始めた私の日常は、質素でつつましいものでした。
大きな贅沢はできなくても、祖母の優しさに包まれた日々は、私に安心とぬくもりを与えてくれていました。
祖母には糖尿病や高血圧といった持病があり、毎月一度、熊本市内の大きな病院に通う必要がありました。
その通院の日は、私たちにとって小さな「一大イベント」でした。
片道1時間以上かけてバスに揺られ、普段は見られない街の賑わいを眺めるだけで、胸が高鳴ったものです。
診察が終わると、祖母が決まって連れて行ってくれたのが、大洋デパートの最上階にあるレストラン。
私にとって、そこで食べるお子様ランチは、この上ないごちそうでした。
旗の立ったチキンライスやハンバーグを口に運ぶたび、「今日は特別なんだ」と実感し、心が躍りました。
そして帰り道、祖母は必ずお土産に大学芋を買ってくれました。
甘くて香ばしい大学芋を頬張りながら、「来月もこの日が楽しみだな」と思ったことを今も鮮明に覚えています。
日々の生活は決して裕福ではなかったけれど、私にとっては十分に幸せでした。
祖母が見せてくれたその小さな「贅沢」が、子どもだった私にとって何よりの愛情の証だったのです。
振り返ると、あの頃の私は、祖母の背中から「どんな状況でも人生を楽しむ力」を教わっていたのかもしれません。
波乱万丈な始まりをもった私の人生も、こうした小さな喜びに支えられ、少しずつ前へと歩み始めていきました。