1.産声と別れの決心

私がこの世に産声をあげたその瞬間、ひとつの家族が静かに幕を閉じることを決めていました。

母がまだ私をお腹に抱えていたころ、父は母の知人と心を通わせ、母に離婚を切り出したそうです。
母は強い女性でした。揺れる心を抱えながらも、父にこう告げたといいます。

「浮気なら許すけど、本気なら、この子を産んでから私が別れてあげる。」

父は迷わず「本気だ」と答えました。
その言葉をもって、私がこの世に生まれると同時に、両親は別々の道を歩むことを決意したのです。

母は私に、ずっと「お父さんはもう亡くなったの」とだけ教えてくれました。
家にはお仏壇があったけど父のお位牌は無かった・・・。

疑問もあったけど私はそれを信じ、幼い頃は父の顔を思い描くことすらありませんでした。
それでも母は、私に愛情と生きる力を注ぎながら、前を向いて歩き続けてくれたのです。

両親の離婚後、生活費を稼ぐために母は大阪に残りましたが、私は熊本に住む祖母に引き取られ、近所に住む叔父や叔母に協力してもらいながら、祖母が私を育ててくれました。

のちに祖母から聞いた話では、母は大阪で懸命に働き、月に2回十分な生活費を送ってくれていたそうです。

大阪で働く母とは年に一度、運動会の日にだけ会うのが恒例になりました。
母の姿を観客席に見つけた瞬間、胸がいっぱいになり、「負けないぞ」という力が湧いたことを今でも覚えています。

波乱万丈のスタートだったけれど、私の人生は決して孤独ではありませんでした。
祖母のぬくもり、母の努力、そして折々に差し伸べられた周囲の人の温かな手──そのひとつひとつが、私を支えてくれました。

だからこそ、私は今、どんな過去を抱えた人にも「それでも大丈夫」と伝えたいのです。
人生には辛いこともあるけれど、前を向いて歩いていれば、必ず光が差す瞬間がやってくる。
私自身がそうやって支えられてきたから、今度は私が誰かの力になりたい──そう心から思っています。

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